ザトウクジラの回想
ザトウクジラの回想
2018年12月03日 ザトウクジラ 10m
館山市・波左間漁業協同組合の定置網に迷い込む。
未だ明けきれぬ暗い夜空を眺め、風の声、波の音を耳に手を当て辺りの様子を伺ってみる。
遥か遠くの対岸の山間に、紅色の曙が一点の細さから次第に大きく広がって、ぐんぐんと辺りの闇を食っている。
曙は、暗い闇を食い尽くし、見る見る内に紅色が暁に変わり出した。
何時もなら目を見張る光景だが、今一低い雲が多く、日の出がわざと遅らせて居る様だ。
暁が朝日を押さえる様に輝きを増し、真紅の色に輝き出した素晴らしい光景がそこに有る。
日の出はまだか。朝日はまだか。

そんな中、警笛一斉 出港の合図だ。

船長以下7人の乗組員が一斉に各自の役割分担のポジションを守り、岸壁の脇を躱わし、東の低層網へと向かって行った。
朝、一番に低層網を絞る。 実に5日ぶりの網お越しだ。
次第に狭まる網の中、銀鱗がピカピカ光っている。
低層網は網の目を大きくしてあり、5センチ以下の魚は総て網目から出れる様になっている。
稚魚を守る為の自然保護だ。
スズキ・カンパチ等の魚が見える。ソーダカツオの群れが、大きな固まりで前後左右に素晴らしい速さで逃げ回り、乗子達【乗組員】の腕にも次第に力が入り出す。
昔は、船頭以下全乗組員達が大声で大漁節を歌いながら網を手繰り寄せ、お互いの歌声に聞き惚れ競い合ったものだ。
今の時代は既に無い。黙々と自分のポジションを守る。なんとも寂しい定置網の作業だ。
そして、漁獲作業を終え、船は港へと戻って来る。
最初に低層網の漁獲を水揚げした。

漁獲は、カンパチ・スズキ・ソーダガツオ・イサキ・タカベ、他3トン位。

「西網にも多少は有るだろう」
と期待を膨らませ西網に向かう。
9時頃、定置網の船から連絡があった。西網に回った定置網の船が、所定の位置に付いて網を絞る段階で、デッカイクジラが入っているとわかったのだ。その連絡があった。
突然の電話連絡で私はからかわれて居るのでは無いかと耳を疑った。
「嘘だろう 嘘に決まっている」
先日、デッカイ、ホホジロザメが入ったばかりだ。ホントかよ。
船頭からの電話連絡で「放流するからなんとか手伝ってほしい」との連絡。
即、決断。クジラなら絶対安心だ。皆連れて行って見物させよう。【4人だけだ】
我々ダイバーの船は既に高根へ出発する寸前であったが急遽変更、否応無しの現場変更だ。
4人のダイバーで即出発した。ここで4人の紹介をしておこう。
荒川寛幸・・萩原慎司の二人は波左間の主だ。
伊藤亮平、彼【先日小笠原までザトウクジラの生態を写しに行き、無念の思いで帰ってへ来た】は波左間にコブダイの頼子を写しに来た偶然に居合わせたダイバーだった。
後の一人は、印西消防士のダイバー。
4人を乗せて西網のザトウクジラの場所に向かった。
今度はホホジロザメと違って、仲間を連れて行かれる。安心感の塊だ。
箱網の現場に到着。「皆、不安そうな顔だ」
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しばらくして、箱網の中で突然デッカイクジラが潮を吹いた。デカさにたまげたのとザトウクジラと判明したので、俄然ファイトが湧いた様だ。【伊藤君は 嬉しくて狂いそうだろう】
段取りは、金庫網の入り口を全オープンしてクジラを外に出す算段をする。
【箱網と金庫網を分離する】その為には、金庫網と箱網の結束部分を解かなければならず、一時間は掛かる、その間は脅かさない様に写真に収めようと思う。
我々はその最中に、箱網の中で自由にザトウクジラとの接触を充分に撮影させてもらった


ゴツゴツしたコブだらけの頭から先端までのいかつい顔。3m離れて見てみると、利にかなった素晴らしい形態。何一つ無駄の無い体型をしている。

私は、口の周り、目の周り、様々な場所を手で触れたり写真に写したり沢山の動画も撮れた。


所々、カキと言うかフジツボのでかいのがこびり付いている。そのフジツボの定着面に、短くちぎれた古い網が、小さく短く、体の一部分になっている様に食い込んで居る。

剥がせる物なら剥がしてやろう。私はある程度強く横に引き抜く。頭部に向かって抜けば意外と外せる。5・6ケ処抜いたが別にザトウは動じなかった。まるで私のやっている事が分かっているようだ。
ここで私は新しい発見をした。限られた狭い箱網の中、幅60m深さ40m長さ80mでのザトウクジラを一定の方向に進める方法を。

誤って真似をされて事故に繋がっても困る事なので、発見をしただけの事です。
【最後の放流の時にそれを行ってみて見事成功した】
神々しいザトウクジラの姿。
威厳を放つ神秘の姿。
観察していてもたまらない魅力に包み込まれる。
萩原もじっくりとデジカメを回し観察している。
私は、あらゆる角度から接近して写し、動画を回し、充分堪能した頃【小一時間】、金庫網の分離が出来た合図があった。
「凄いなぁー凄いなぁー」此れ以上の言葉が出ない。
伊藤亮平くんもさぞ満足したであろう。偶然が重なって実に良かった。
「さあ~これからが最後の本番だ」
箱網の中で慣れ切ってたザトウクジラが、我々ダイバーを気にせず遊んで、むしろ我々に好意を持っている様だ。【もっと一緒に遊んで居たいのが本音だ】最後の別れだ。
4人のダイバーが上下の間隔を開けゆっくりと進み、大きく開けた箱網と金庫網の間、後ろから誘導して網の外へと出してあげた。
海の王者に相応しい、威厳に満ちた風格。
箱網の中でも去る時にでも堂々と動じない姿で、影が次第次第に遠のいて行く

その尊い姿が紺碧の水中の深み、深みへと 次第に消えて行った。
ザトウが助けてくれて有難うと云ってくれているというより、むしろ我々が感謝をしていた。
有難う、ザトウのクジラさん。
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